会長より

癒しのトイレ研究会 会長 高柳和江

医療法人葵会
元日本医科大学準教授
一般社団法人癒しの環境研究会 理事長
笑医塾 塾長


 急性期の病気になった人は、一つ一つのことができなくなります。息をすること、飲み込むこと、他人とコンタクトを取ること。病人になったと、自分をみじめに感じるのは排泄を介助されるようになった時です。なんと多くの闘病記に排泄の苦しみが書いてあることでしょう。昭和の賢人、山本七平さんの闘病日記も、井上ひさしさんも最期は、排泄のことが9割を占めていました。最後まで用便を自分でしていた人は、あざやかな死に際だと尊敬されます。でも、患者さんの容態に配慮したトイレでなければ、自分でしたくても、できないのです。
 人間性の回復を確信するのは自力でトイレに行き、誰の手助けも借りずに、自分で排泄するときです。自分の力だけで排泄ができた瞬間は何物にも代えがたい開放感です。
 病院は人間のタブーを犯されるところです。排泄で粗相をしたくありません。いつでもトイレに行くことができ、気兼ねせずに長い間、ゆっくり、用を足したいものです。トイレを整備するのは大切なポイントです。医学的レベルが同じとしたら、どんなところに入院したいときくと、もちろん、病院に癒しの環境のトイレがあるところという返事が返ってきます。ひとりひとつのマイトイレがあり、美しい機能的なトイレがあるのは、病気をした人間の基本的要求です。
 癒しのトイレ研究会を10年前にたちあげた初代事務局長の高嶋さん。家には、ウォシュレットがあるのに、病院はありません。終末期に入院し、オムツをさせられた義父が病院でいつも言っていたのは、「ウォシュレット」だったのです。病院にウオッシ排泄の重要性を感じ、ウォシュレットの寄付が増えたという話も聞いています。
 日本から一番近いヨーロッパであるフィンランドは、日本と同じく、天然資源に恵まれず、国民の勤勉さで高い生活水準を支えている国です。此処のトイレは必ず手のとどくところに小さな洗面台があり、お湯で手を洗えます。ここにはぴかぴかのシャワー管がついており、局所をあらうことができるのです。排便行動を幸せに終わるのは、フィンランド人をフィンランド人らしくするために必要なのです。
 インテリの正しい英語訳は、知識人ではなく、知性のある人のことだといいます。病人を患者から知性の人に格上げしましょう。癒しのトイレがそのお手伝いをします。知性の人であり、人間的に生きることは病気の治癒をはやめます。
 癒しのトイレ研究会にようこそ。いまこそ、自己治癒力を高めて、自分で病気を治すときです。癒しのトイレ研究会は、2000年4月に立ちあがりました。トイレの環境を形作る企業有志があつまり、真摯に病院のトイレを考えようと全国の病院のトイレを見て歩きました。今まで、いろいろなテーマで、考えてきました。
Vol.1 これからの病院トイレを考える
Vol.2 快適な病院トイレを求める試み
Vol.3 療養型病院に見るトイレの多彩な展開
Vol.4 子どもと女性に配慮した病院とトイレ
Vol.5 既成の手法に対する新たな挑戦
Vol.6 リハビリテーション 訓練・療養の場における癒しのトイレ
Vol.7 患者さんを優先した病院の環境づくり
Vol.8 患者と医療者がのぞむ理想的なトイレ空間を実現するために

これからも全国の病院・福祉施設に癒しのトイレをどんどん、増やしていきたいと思います。排泄を自分でするのは、人間性の復権です。
皆さまのご支援を楽しみにしています。
高柳和江会長










2010年10月  高柳和江

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