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時代のニーズに応えた病室とトイレの改修で市民からさらに親しまれる病院へ

碧南市民病院

和式便器を廃して、介助のしやすいブースの広さを確保

介助のしづらい狭いトイレブースと、患者にとって負担の大きい和式便器。これらを改めるとともに、病室や通路の内装を明るい基調色に改修した碧南市民病院。市民を見守る歴史ある建物に、未来へつながる改修が施されました。

経年による劣化とニーズの変化で介助のしにくさも顕在化

碧南市民病院は愛知県碧南市における救急医療及び急性期医療の中核を担う病院です。1988年に設立されて以来、「温かな心のこもった医療」の提供を基本理念に、市民が安心して日々の暮らしを送るために、チームによる高度医療を行うとともに、リハビリテーションにも注力、患者ファーストの質の高い医療の提供に努めてきました。スタッフの士気は高く、しかもオープンでフレンドリーなのもこの病院の特色。「誰にでも気兼ねなく相談でき、働きやすい環境」と看護スタッフも口を揃えます。 建物は東西に長い低層のファサードが特徴で、病院に特有の威圧感がなく、入りやすく親しみやすさにつながっています。建物内部も、中心に中庭を置いた開放的な外来ロビーが印象的な空間構成で、建物の建築的な評価も高く、1990年には愛知県快適空間賞、1992年には第一回病院建築賞を受賞しています。

外来ロビーを入ると正面には中庭を望む大開口。明るく開放的で利用者にポジティブな印象を与えてくれる。

そんな建物ですが、経年によってトイレなどの水まわりや病棟の内装が劣化、陳腐化して今回の改修が計画されました。竣工当時は落ち着いた雰囲気を演出した間接照明の病室は、暗いという評価に変わり、当時は主流だった和式便器は患者の高齢化もあって使う人が少なくなり、スペースが無駄になっていたのです。特にトイレはブースの狭さによって介助しにくい状況が顕在化し、早急な改善が求められていました。

副院長
杉浦厚司さん
管理課
髙原孝一さん
看護部部長
鳥居ゆかりさん
看護部主任
杉浦知美さん
木村建築株式会社
横山卓也さん

碧南市の地域性

杉浦副院長 全国、地方に行けば皆同じだと思いますがここも周辺住民の高齢化が進んでいます。足の不自由な方、認知症を患っておられる方なども多いですね。ひとつ特徴といっていいかもしれないのは、核家族ではなくおじいちゃんおばあちゃんが子供と孫とともに暮らしているという例が多く、親族の方にも連絡がつきやすいということが挙げられます。そんな中、碧南市民病院は二次医療圏の公立病院として、包括病棟を擁しポストアキュート(急性期後の引き続きの入院治療)の受け入れも行っています。また、高度医療に関しては近隣の三次医療機関と緊密な連携を保っています。

トイレは十分な広さを持ち、ジェンダーへの配慮も

改修は2022年5月から始まり、約1年3か月の工事期間を経て竣工を迎えました。設計途中、厚生労働省による公立医療機関再編統合の検討要請があったり新型コロナウイルスの猛威で感染対策の重要性を再認識するなど試行錯誤を強いられましたが、患者ファーストのコンセプトは堅持され、4床で使用していた病室を3床に変更して、患者の荷物置き場を確保し、内装や照明を明るい雰囲気に一新。通路などのフロア材も転倒の衝撃を吸収しやすく疲れにくいクッション性の高いシートを採用しています。ちなみにこのシート選びに際しては、看護にあたる現場スタッフが仮施工したシートを体験して決めました。

杉浦副院長 昭和63年開設ですから、築35年くらいでしょうか。トイレが一番の課題で、次に明るさ、様々な個所の老朽化が目立っていました。傷んだ部分は都度修繕という形で対応してきて、今回大規模な改修に取り掛かったわけです。厚生労働省からの公立病院の経営統廃合推進プランもあって、4床室を3床室に変更したりしています。そのほか三次医療機関の刈谷総合病院や、安城更生病院との話し合いの結果や、スタッフ不足という状況を加味したうえで病棟の構成が決まっています。

コストをかけずにより快適な病院へ

杉浦副院長 改修のテーマとしては、コストをかけずにより快適な病院を目指すということです。そのために、ダウンライトが中心で少し暗い雰囲気だった病棟の照明をLED照明に改めました。次にトイレですね。63年当時の和式トイレがメインだったのを全て洋式トイレに変更しました。30年くらい前なら和式トイレも残してほしいという声があったかもしれませんが、さすがに現在の高齢化社会では足腰が弱くて和式では用を足せない人の方が多い。そこで全て洋式化して空間も改めたかったのですが、当時のコンクリートが頑丈で、それが制限となって担当者はかなり苦労されたと思います。
ただ、地域包括ケア病棟ではポストアキュートの高齢者が多いことから、自分で歩いてトイレに行けないという人たちが多いという現状がありました。そこへ歩いて行くことを想定したトイレを増やしても仕方がないので、車いすが入れるトイレをつくるということも目的の一つでした。また、トイレの中で患者の転倒などのトラブルに看護師が対処できる広さも必要です。昔のトイレは狭くて、体格のいい患者がトイレで容態急変があったときに、患者の身体を引っ張り出すのが精いっぱいということがありました。そういうことが実際にあったので、スタッフが介助できる十分な広さは必要というのがスタッフの共通認識でした。一方で、広さを確保すれば便器の数は減ってしまいますが、和式トイレが使われていない現状からすれば、その分、数は減らしても問題はないだろうという算段がありました。

週1のペースで行われた改修ミーティング

髙原 病棟改修工事について週1回、トイレをどうしようとか要望を聞いたり、方向性をまとめるミーティングを行いました。その中でたとえば手すりの向きが右側に偏らないようにしようだとか、かなり細かい点まで詰めました。

鳥居 毎回各病棟の主任が集まって7人から10人くらい参加してましたよね。そのミーティングでは言いたい放題言える環境でした。

鳥居 また、看護部は女性が多いこともあって小便器は不要なのでは? という意見を挙げたのですが、男性側からそれは必要だ、ということで残りました。
あとはジェンダーフリー対応のトイレがないのは機能評価上問題があるのではないかということで、バリアフリートイレのサインを整備してもらいました。
改修されていないところでいうと、職員トイレが狭くて使いにくいのですが、今回の改修では見送りとなりました。

髙原 予算の都合でどうしても患者さんが使うところが優先されてしまいます。職員トイレはあれ以上面積を広げることが難しいのと、個室ブースが直接廊下に面しているので扉を外開きにするわけにもいきませんので、床・壁・天井を塗り直すのにとどめています。

病棟運営しながら改修する手順とは?

横山 最初に5階ワンフロアと4階西の1.5フロアを工事エリアとして空けていただきました。工事を始めたのは5階西のトイレです。その時に配管工事のために直下の4階西の天井配管工事を行いました。5階の西側の工事を終えて、5階東に工事区域を移すときに4階西に患者さんを戻し、4階東を閉鎖して同様に天井配管に加えて解体など、仕上げ前の段階までの工事を先行させ、5階の工事を終えます。次に工事を終えた5階に4階西を含む患者さんを戻して4階をワンフロア工事区画として閉鎖すると、4階東の解体はすでに終わっていて、4階西の解体からスタートできます。この手順を踏むことでワンフロア当たりの工期を1か月短縮できました。この流れを順次繰り返して、改修を進めたわけです。

工事の流れ

横山 5階から3階は工事としてはシンプルなのですが、2階は下階に厨房やリハビリ施設があり、工事は配管撤去などで生じる粉塵をどうやって防ぐかということがポイントになりました。工事区画を間仕切りで閉鎖、シート養生をすることはもちろん、集塵機やミストキャッチを用いて粉塵が工事区画外に出ることを防止しました。

髙原 最初は厨房を止めてアウトソーシングすることも考えたのですが、やはり非現実的ですし、厨房は動かし続けるしかありませんでした。

横山 そこで厨房の前にリハビリ施設の工事をしたときに、間仕切りや集塵機、ミストキャッチの効果測定をして、結果としてこれならいけるということで厨房に着手しました。厨房の場合、食材の搬入や食事の搬出があるので、その動線を邪魔しないように工事機器を搬入、搬出するのにも苦労しました。とにかく厨房の作業優先で、厨房の作業が落ち着いている時を狙って工事を進めるという感じでした。

髙原 そうした動線計画なども保健所に相談して工事を進めていきました。

点滴スタンドが入らないトイレブース

鳥居 トイレが狭いのが一番の問題でした。患者さんが点滴スタンドを押しながらトイレに入ると身動きが取れなくなったり、仕方がないからスタンドをドアの外においてブースの扉を閉めると、今度は通路が塞がれて他の人が奥に行けないということがありました。他にもトイレのブース内で倒れた人を引っ張り出すのにものすごく苦労したことがありました。体の横から介助することができないので、足を引っ張ったのか隣のブースから仕切りを乗り越えて入ったのか憶えてないんですが、とにかく大変でした。
ほかにも和式便器を使って、しゃがんだら立ち上がれなくなった人もいましたし、そもそもしゃがめない人がほとんどで和式は使われていない状態でした。そうすると個室ブースがひとつ使えないので、トイレが混むことがありました。

髙原 昔、和式便器を置いていたところに便器だけ洋式に換えているブースが多かったので、内部がとにかく狭かったんです。

改修についての要望

鳥居 手洗いについてはシンクが深くて水が跳ねないものに交換すること。これはスタッフ用・患者用に関わらず要望を出しました。手洗い器の数はこれまで通りで問題ありませんでした。大便器については、自動洗浄機能がありますが、便の確認が必要な場合があるので自動で流れては困るということで、その場合は手動で洗浄しています。

    改修前の様子    

有事には扉で隔離できる感染症対応エリアを新設

東西の病棟に一箇所ずつあったナースコーナーは中央に集約され、空いた空間は介助のための十分なスペースがとられた3つの広めブースが並ぶ共用トイレに改修されました。男性トイレは小便器の利用が少ないことから器具数を減らし、3つある広めブースのうちひとつに併設するだけに見直されました。また、共用トイレについては男女別トイレの他、一部の車いす使用者用トイレでは性別を問わずに気兼ねなく安心して利用できるようにジェンダーフリーのサインを設けてあります。特に2階のトイレには小便器やオストメイト配慮設備と多目的シートが併設されたバリアフリートイレも用意されています。また、個室に設けられたトイレは2方向から出入りできるようになり、患者、介助者双方から好評です。

    改修後    

病棟平面図
中央にスタッフステーションがあり、東西に病棟が伸びる。改修前に東西にそれぞれ配置されていたスタッフルームは一部を共用トイレに変更し、西側のトイレはジェンダーフリー、東側に男女別のトイレを増床改修した。

    病棟    

4階東側のフロアは感染対応仕様にしている。中央に見えるのは感染対応病棟として稼働した時に閉鎖されるスイングドア。平常時には解放されている。また、東側病棟には陰圧機が4台設置され、感染病棟からの空気の流れを制御できるように準備されている。

    スタッフステーション    

中央に集約されたスタッフステーション出入口に設けられた手洗いコーナー。しっかりと手洗いができる深いボウルに、液体石けんと水じまいのよい壁付タイプの自動水栓、ペーパータオルが全て備えられ、洗うから拭くまでを完結できる。

感染症対策

杉浦副院長 改修工事直前にコロナ禍が始まったことから、今後の感染症対策も含めて公立病院としては対処する必要がありました。そこで4階の東病棟を感染症対応エリアとしました。そのエリア内で感染症患者が排泄行為を完結できる必要があるので、患者さんが対応エリアから出なくてすむよう、トイレの整備など万全を期しました。具体的には東エリア入口に簡易ではありますが扉をつけて、いざというときは隔離ができるように配慮しました。

スタッフステーションの集約

杉浦副院長 改修前は中央と東西にスタッフステーションがあったのですが、それを一つに集約しています。これはスタッフステーションを集約することを目的にしたのではなく、トイレのスペースを確保しようという目的との兼ね合いで生じた部分です。2階と4階は病床数を60に抑えて1病棟とし、スタッフステーションもそれに合わせて一つにしました。

感染症対策

杉浦看護師 スタッフ用の手洗いシンクは希望のものが設置されました。大型のボウルで深く、ボウル内に水がたまりにくい。手洗い時に底面と側面に指先が当たりにくく、水の飛散が少ない(床が濡れない)。非接触で衛生的に手洗いができるようになりました。また流水口は傾斜をつけて水滴付着を少なくし、排水口も汚れのつきにくいものとなり、築30年経過の排水管関連の薬剤耐性菌対策となったのではないかと感じています。

洗浄室は衛生か管理しやすいように改修

洗浄室(汚物処理室)

杉浦看護師 改修前はトイレと洗浄室が中でつながっていたのですが、患者さんが洗浄室に入ってしまうということがありました。それで、トイレと洗浄室はセパレートしてほしいという要望を出していました。

鳥居 本当は注射針などの医療廃棄物も洗浄室に保管したかったのですが、患者さんが入って危険ということで、スタッフステーションで保管~処分していたことがありました。でも改修後は洗浄室で一括管理できているので、衛生管理がしやすくなりました。出入口の扉は自動扉ではないので、開けっ放しにならないよう気を付けています。このほか、手洗いの励行やゴーグルの着用など、コロナによって皆が衛生に対する意識をいちだんと高めるようになりました。

洗浄室。扉の正面に汚物流しとベッドパンウォッシャーが並ぶ。改修前はトイレに付帯した空間だったが、スタッフ以外の出入りを制限するために仕切ったため、細長い空間に必要な設備がレイアウトされている。2wayの出入口により、病室から短い動線で作業ができるように配慮されている。

ジェンダーフリートイレの新設など、アップデートされたトイレ

    病室    

改修後の個室。入口引き戸の脇に患者用ロッカー(移動式)が納まる。直交する引き戸は2方向が開口するトイレ。
個室のトイレブースの扉は2方向から開くので、患者の身体的負担が少なく、介助もしやすい。
扉の脇に収納されたロッカーボックス。下にキャスターがつけられていて、病室を移る際にもロッカーごと荷物を移動できる。
キッチン付き流し台、シャワーやトイレまで備わる特別個室。明るい印象になるよう居住性の高い木質系の内装材を採用している。

    集中・共用トイレ    

3つのブースで構成される2階病棟東側の女子トイレ。身体状況によって選べるように、広さの違うブースや手すりの配置にバリエーションを持たせるなど、左右勝手の違うトイレを用意。また、有効開口を確保するために、連動引き戸を採用している。
トイレ内の転倒リスクへの低減対策として、トイレ離座検知システムが導入されたブース。介助のための十分な広さがとられ、車いす使用者や点滴スタンドを持った患者でも使いやすい。右端は尿量計測用のカップと専用ごみ箱。
ジェンダーフリーで誰でも気兼ねなく利用できるトイレが西棟に並ぶ。洋式便器に離座センサー専用ウォシュレットと前方ボードを組み合わせ、小便器は寄り付きやすい低リップタイプと床段差の少ない防汚タイルでバリアフリーに配慮、入口横にコンパクトな手洗器が備わる。
ジェンダーフリーかつ車いすも入れることを示す突出しサインが廊下に。もうひとつのバリアフリートイレにはオストメイト配慮設備も備わる。

2階に1室だけ設けられたオスメイト対応のバリアフリートイレ。通路に掲げられたサインは男女共用とオスメイト対応を示すもので、誰でも利用できる。車いすに対応した手洗い器や収納式多目的シート、採尿カップと専用ごみ箱が設置され、便器には離座検知システムも備わる。トイレの床は消臭に優れ防滑性のある床材を選定し、誰もが安心して利用できるように配慮。またノンワックスの床材で清掃性やメンテナンス性も向上している。

トイレが空室か使用中かを示すサインは矢印プレートをスライドさせて切り替える。

看護師の作業を助ける明るい病棟とトイレへ

髙原 第一印象としてはにおいがなくなったな、ということですね。病棟で常勤している先生や看護師は慣れていて気付かなかったと思いますが、病棟特有のにおいがあったのですが、それがなくなりました。

杉浦副院長 改修は5階から4階、3階と順に行ったのですが、2階に入院していた患者さんが改修後の5階に移った時には「きれいになったねぇ」と喜んでくれました。ただ、新しい患者さんにとってはきれいになった状態が当たり前だし、古くからの外来患者さんも環境にすぐに慣れてしまうので、特に褒めてもらうこともなかったですね(笑)。
病棟が明るくなったことについては看護師にすごくメリットがあります。彼らは薬の数を数えたり、細かい文字を確認する必要があります。以前に比べて明るくなっているので、確認作業がしやすくなり仕事の効率化、合理化につながっていると思います。病室は明るくしすぎると患者さんが眠れないというデメリットもありますが、いい塩梅に収まっているのではないでしょうか。

杉浦看護師 トイレが広くなったので、介助が必要な患者さんを連れていきやすくなりました。また、改修前は男性用の個室ブースが少なく、しかも一つは和式なので実質一つだけ。それで男性患者さんからの苦情が多かったのですが、それも一切なくなりました。
また、これはトイレに限ったことではないのですが照明がLED化されて明るくなり、床材が二色使いだったのが単色に変わったので明るく、広く感じるようになりました。

鳥居 広くてきれいで、改修前に困っていた介助のしにくさは解消されていますし、患者さんが点滴スタンドの置き場所に困ることもない。とにかく今までの困りごとは全部解決していると思います。
欲を言えば、使用中は飛行機のトイレのように表示が出るといいですね。というのも、今は使用中、空室の札を使っているのですが、案外扉の鍵を閉めずに使う人がいるみたいなので、自動で表示されると間違いないな、と。

1.5フロアの機能を止めて工事区画に

改修の最大の課題は病院として運用しながら病棟を改修するため、工期をできるだけ短く、騒音など工事に付随する負の要素を低く抑えることでした。そのために工事は5階からスタートし、長い病床を東西に分けて5階部分と4階西側部分という具合に1.5フロアずつを工事区域として病院機能をクローズさせることで効率的に作業を進めて工期を短縮。

騒音・振動対策としてはハンドクラッシャーやウォールソーといった特殊な工具を用いることでコンクリートのハツリ作業による騒音・振動を軽減しました。完成形はもちろんのこと、計画から施工段階に至るまで利用者の利便性や快適性を優先した改修によって、碧南市民病院はこれまで以上に市民から親しまれる公共医療機関として生まれ変わりました。

病院を運営しながら改修する課題と対策

横山 工区をきちんと確保していただくことでしょうか。今回のように5階と4階西を閉鎖して、そこには工事関係者しか出入りしない環境をつくってもらえたことはとても助かりました。これは工期の短縮にもつながります。たとえばフロアを運用しながら工事も進めるとなると、工区を間仕切るための工程が増えてしまいますから。
碧南市民病院の場合、5階から3階まではよかったんですが、2階は診察棟から病棟への動線があったので、そこは閉鎖できませんでした。

髙原 2階のエレベーターホールを通らないとオペ室に行けないんです。工事だからオペをやめてくれ、というわけにはいきませんから、どうやって患者さんを通すのかという点に苦労しました。

横山 工事区画に壁を立てて間仕切りし、ほこりが出ないように工事区画をシート養生したうえで通る人を限定させていただきました。また、手術がない日を選んで床や天井をはがしたりなど、工事の内容についても吟味しました。

横山 振動・騒音対策については、躯体を割って開口部を広げたり、レイアウト変更に伴って腰壁を割ったりする作業には比較的騒音、振動の少ないハンドクラッシャーを用いて平日の日中に行い、どうしてもはつり作業が必要になる場合は土日の短時間に集中させました。そうした作業では粉塵がどうしても発生するので、できるだけ工区を細かく仕切ってシート養生を行ったり、窓に送風機をつけて工区を陰圧に保ち、ほこりを工区から院内に入らないようにしました。工区を陰圧に保つことで塗装などの臭気が漏れることも併せて防いでいます。ただ、それだけやっても看護師さんから臭気の指摘はありました。振動の苦情はピンポイントで原因がわかるからいいのですが、臭気の原因は意外とわからないことが多かったですね。指摘されて現場に行ってみると、塗装のにおいではなくアルコールのにおいじゃないか、ということがあったりして…。感じ方は人それぞれなので、臭気対策の難しさを痛感しました。

鳥居 改修中の病棟の移動を管理するために、病棟移動する患者さんの数のコントロールや、移動先の案内を行いました。できるだけ短時間で効率的に移動するために、誰がどこに移動するのかを張り紙などで明示して、手伝ってくれた研修医の先生や事務方が迷わないように工夫しました。それが奏功したのか、移動は大きなトラブルもなく、だいたい半日で終わっています。ただ、改修中は病棟の患者さんの診療科が入り乱れるのでケアの方法などに最初戸惑うことがありました。すぐに慣れましたが。
改修中の音・臭いについては患者さんからも多少の苦情はありました。

髙原 今回の改修ではコンクリートをいじる部分を最小限に抑えたのですが、それでも壊さなければいけない部分もあって、はつり作業の音は押さえても抑えきれるものではありません。それを看護師の皆さんがケアしてくれて、僕まで苦情が上がってくることはほとんどなく、とても助けられました。
はつり作業をするときには、直下のフロアは空けていたのですが、上階は人がいます。今回やってみてわかったんですが、はつるときの振動は横よりも、上下への影響が大きかったです。2階で作業した音と振動が5階まで大きく響いたのには驚かされました。

鳥居 作業時間を短縮してもらったり、昼食時は外してもらったりとこちらから要望したことに対して、とても真摯に対応していただきました。

髙原 意外と困ったのがベッドの置き場所でした。院内でなんとかなるかと思ったのですが、置く場所がなかった。ワンフロア閉鎖するとなるとベッドが60-80台あるわけです。ベッドは上積みができず平置きにするしかありません。当然ある程度の面積が必要になります。たまたま碧南市が空き店舗を倉庫として利用できるよう交渉して、格安で借りることで事なきを得たんですが、いわゆる「貸倉庫」を借りていたら相当のコストがかかってました。ベッド保管については改修を考えるどの病院も頭を悩ませる問題だと思います。

横山 最初のうちはベッドが残ってましたね。4階西は天井配管が終わったらいったんオープンする予定だったので、病室にベッドが置いてありました。それで廊下側から養生して、病室には入らないように工事を進めました。

病院改修で心掛けていること

横山 最大のポイントは電気ですね。院内の電気配線は絶対に切らないこと。病院側からも「電気は最重要のライフラインなので、これだけは決して絶ってくれるな」と言われます。だからはつり作業などで躯体に手をつける際にはレントゲンを撮るなど細心の注意を払います。今回も便器の取り付けでコア抜き作業をする際に配線を収めた管が走っていることが分かったので、便器の向きを少し変えることで対処したこともありました。

病院改修を成功させるために

横山 フロアすべてをリニューアルするために改修するなら、碧南市民病院のようにフロア単位のまとまった工区を開放してもらえると工事はスムーズに運ぶと思います。これがトイレだけの改修ならば、配管工事をスムーズに進めるために建物を縦割りして工区を区切るといいですね。あとは、髙原さんのように、施工と病院の間に立って、両者の言い分や都合を理解して采配するコーディネーターの存在は大切です。

今後の課題

鳥居 今回の改修は今できる最善だと思います。今後もし建て替えられるなら、多床室にもトイレをつけてほしいですね。患者さんの移動距離が少なくなるし、使う人が限定されることから感染症対策としてみても有効かな、と。あと、トイレはすべてユニバーサルトイレにして男女共用にすることを考えてもいいのではないかと思います。個室の数の問題がかなりクリアになりそうなのと、LGBTQの人が専用のトイレを使わなければいけない状況というのもどうなのかな、と疑問に思うので。

杉浦看護師 便座の高さにバリエーションがほしいです。標準のタイプだと低めなので、下肢麻痺の患者さんを車いすから移すときに、高低差から多少衝撃を与えてしまうことがあります。特に男性の体格のいい患者さんを介助するときは痛感します。便座がもう少し高いとそれが防げると思います。車いす用トイレは便座が若干高いのですが、それでも低い感じがしますね。

将来的には全てのトイレが個室化するかも

髙原 今回の改修では副院長が改修のチームリーダーだったことも大きかったですね。副院長が施工側の都合を理解してくれる人で、病院側を説得する場面も多々ありました。副院長の役割を僕が担ったら、ここまでうまくはいきません。副院長くらいの立場の方が改修のチームリーダーだったことはとても大きいと思います。

杉浦副院長 今回の改修もおそらくもって15年。次は小手先の改修では無理だと思うので大規模改修にするのか、病院の統廃合にするのかその時の判断によるのでしょうが、当然人口構造も変わります。たとえば今回一部のトイレをジェンダーレス・バリアフリー対応にしたのですが、LGBTQ人口が増えれば、すべてのトイレを個室化する必要があるかもしれません。
ジェンダーレストイレについていえば、うちは地方の病院なので、都会に比べて必要性があるのか少し疑問に思っていたところもありました。しかし、現場スタッフから「これからは絶対必要になります」と進言があり、車いす対応の男女共用個室トイレを性別やハンディキャップを問わず、誰でも使えるトイレと位置付けたわけです。また、男性の小便器についても、立って用を足したいという声がまだまだあります。特にお年寄りに座って用を足して下さい、とはなかなか強制できません。高齢者は一度座ってしまうと、立ち上がるのに苦労するということもありますから。ただ、これも意識が変化して30年後くらいには男性もみんな座って用を足すようになるかもしれません。

建築概要

竣工年月 2023年7月(改修)
所在地 愛知県
施主 碧南市
設計 株式会社青島設計
延床面積 2万7324㎡
病床数 255床

研究誌
癒しのトイレ
VOL.20

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