JR中央線阿佐ヶ谷駅北口から見える便利な場所にありながら、「森の中の病院」というコンセプトを掲げる、緑豊かな場所に建つ河北総合病院。開院から97年が経過し、次の100年を見据えた新しい病院に生まれ変わりました。
目次
地域に根ざした97年の歩み
河北総合病院の前身「河北病院」は、1928年に内科・小児科30床の病院として開設されました。その後、地域と社会の状況に合わせて診療科・病床を整備し、医療法人格を取得。新築移転前には病床407床を擁する規模へと発展を遂げました。同病院の特徴は、急性期医療と地域連携の両立にあります。急性期医療を担う同病院を中心として、近隣に分院・リハビリテーション病院・透析センター・健診センターなど一連の施設を擁し、民間病院としては都内屈指の規模で地域の総合的な医療を担ってきました。救急センター(ER)、CCU・ICUを備えるほか、2008年には心臓・血管センターおよび脳卒中センターを開設し、救急・急性期への対応力を強化。1981年にスタートさせた在宅医療は、訪問診療・看護・介護をワンストップで提供するトータルホームヘルスケアサービスに発展させています。
さらに1998年には日本の総合病院として初めて環境マネジメントシステムISO 14001の認証を取得、医療の質向上だけでなく環境面でも先進的な取り組みを続けてきました。
母体となる河北医療財団の理念は「社会文化を背景とし、地球環境と調和した、よりよい医療への挑戦」。「質の高い恕(おもいやり)のある医療を行うとともに、地域の健康向上に寄与する」ことを掲げ、開院から97年間、一貫して地域に寄り添い続けてきました。しかし築70年に及ぶ建物の老朽化が深刻化、1983年の段階で病院の建て直しが最優先課題とされてきました。
新病院新築移転の計画が急速に進展したのは、阿佐ヶ谷駅北東地区土地区画整理事業の開始でした。阿佐ヶ谷駅北口地区を対象に杉並区、河北医療財団、欅興産の三者が連携し、2019年頃から具体化がすすめられたもので、河北総合病院は既存の建物を取り壊して、けやき屋敷と呼ばれていた緑豊かな隣地に新しい建物を建てることとなったのです。
白を基調とした通路に強い印象を残す壁面のカラーと、木目調の天井と床。看護師が常駐するベースは患者から一目でわかり、立ち寄った他職種の職員もコミュニケーションがとりやすい空間になっている。


急性期病院では初のZEB Oriented認証を取得
新たな病院の建物は、2023年に着工し、2年の工事期間を経て2025年6月に竣工、7月1日に開院しました。災害時にも機能を維持できる地上9階建ての免震構造を持つ新病院は、がんの放射線治療や手術支援ロボットの導入など、高度先進医療の充実を図っています。また、病院理念に謳われている「環境との調和」を図るべく、新しい病院のコンセプトとして「森の中の病院」を掲げ、「けやき屋敷」に残された豊かな樹木を生かしながら、環境負荷の低い建物を実現。同病院は急性期病院としては都内初となるZEB Oriented認証(※)を取得しています。
「エネルギー消費が多い急性期病院でZEB Oriented認証を取得するのはとても難しいことです。そこで、敷地の緑を生かすために、樹木の位置に沿って建物の配置を雁行させ、エネルギーゲイン(日射による熱エネルギー)を減らすために建物の開口部は南北面を基本としました。敷地内の樹木は葉が茂る夏は日射を遮り、落葉する冬には日射を取り入れる効果を生みます。建物外皮の断熱性能は、高性能の断熱材や開口部のLow-Eガラスの採用で担保。細かいところでは、夜間の換気制御を行っています。これは就寝時の人の代謝が下がることに着目し、夜間の換気量を減らすことによって、熱損失と消費電力量の削減を実現するもの。また、病室の空調機器は、各室ごとに独立したエアコンを採用。個別分散化することで、故障時の影響などリスクを最小限におさえつつ、省エネ・省コストを実現しています。
その他、ガスを燃料とするコージェネレーション(熱電併給)エンジンを4基導入、CO2は年間1,260t削減し、光熱費で3,700万円の節約につながる試算です」(設計担当者談)。
フロアは1階に救急外来、高度医療診断・治療センターを配置。救急外来には画像診断室を近接させて、迅速な診断を可能としています。また、高度医療診断・治療センターには最新の放射線治療機を導入。杉並区では初となる放射線治療が可能となり、暮らしながらがんの先端医療を受けられる環境を整えています。2階は一般外来診療エリア。最大の特徴はホスピタルコリドーと呼ばれる外来待合室です。片側が全面開口、反対面には書棚がしつらえられた広い空間で、「森の中の病院」というコンセプト通り、開口部から緑豊かな景色が四季を通じて楽しめるほか、中央にはコーヒースタンド「FOREST CAFÉ」も設置されています。3階は手術室、CCU・ICU、HCUなどが位置する高度集中治療エリア。4階は部門ごとにゾーン分けされたフリーアドレス制が特徴的な管理部門がおかれ、5階から9階までが病棟となっています。
※延床面積1万㎡以上の大型非住宅建築物のうち、年間の一次エネルギー消費量を基準値から30-40%削減している建物(病院は30%以上の削減)が認証の対象となる。一次エネルギー削減には外皮断熱、自然換気などのパッシブ技術と高効率空調や高効率照明などのアクティブ技術を用いることなどの条件が設けられている。






一新された水まわり。介助の負担も劇的に低減
水まわり設備は旧病院から大きく刷新されました。
「旧病院の病棟は集中型のトイレで、通路も狭く、車いすの患者さんの介助が大変でした。また、通路から中が見え、利用者のプライバシーが確保できないだけでなく、湿気やにおいがこもるなど問題が山積していました」そう語るのは、ベテランの看護スタッフ。さらに旧病院の建物には職員用トイレがなく、患者さんとの共有に抵抗感を持つ職員も少なくなかったといいます。新病院ではこうしたトイレの問題はすべて解決されました。病棟は各個室内にトイレが配置され、多床室用は各病室からアクセスしやすい場所に共用トイレと洗面が数か所設けられています。これらはすべてが車いす対応となり、介助に十分なスペースが確保されただけでなく、離座センサーも完備し、安全でスムーズなトイレ介助が可能となりました。
「旧病院のトイレではナースコールが押せない患者さんの転倒を防ぐため、やむを得ずベルトを用いていて、適宜看護師が状態を確認しに行く必要がありました。しかし新病院では離座センサーのおかげで、その必要がなくなったうえ、転倒事故はほぼゼロになりました」(前出の看護スタッフ)。
外来にはバリアフリートイレと男女別トイレに加え、乳幼児のおむつ替えスペースも設けられています。これらのトイレに用いられた便器は小便器も含めてすべて壁掛け式が採用され、高い清掃性を担保しています。
「旧病院はトイレ全体がくすんだ感じになっていて、汚れなのか経年変化なのかわからなくなっていました。新病院はどこもきれいなので汚れていれば目立ちます。すると汚れていたらすぐにきれいにしなきゃ、というように、スタッフの意識も高まったと思います」(病棟看護スタッフ談)。
病棟には4か所共用トイレが設けられていて、どこもバリアフリー仕様。介助のためのスペースが広くとられて、前方ボードや離座センサーが装備されている。転倒事故がなくなったと、看護スタッフから高い評価を受けている。


「BASE」を起点とする看護で質の高さと効率化を両立
河北総合病院の特徴は、独自の看護方式にも表れています。病棟に導入された新看護体制、河北看護「BASEモデル®」は他に類を見ないシステムです。これは「固定チームナーシング」を主軸とした「セル看護方式」と「パートナーシップ・ナーシング・システム(PNS)」という従来の看護提供方式の要素を部分的に組み入れて統合、開発したもので、病棟の中心にあるスタッフステーションの周囲に3か所の「ベース(拠点)」を設けて、そこを起点に看護活動を行うもの。ベースには固定メンバーの看護師が常駐するため、周囲に配置された担当病床への動線が短縮され、記録作業やケアの効率が大幅に向上しました。また、看護に必要な物品のストック空間もあります。
「ナースコールに応えてベッドサイドへ行く時間が短縮できたこと、物品を積んだナースカートを近くに置いておけるので、病室とスタッフステーションを何度も往復する手間が減りました。また、旧病院では看護師一人あたり7人の患者さんを担当していましたが、現在は一人あたり4~5人にまで軽減されました。担当者が固定されることで、患者さん一人ひとりとより密なコミュニケーションが図れ、手厚いケアを実践できています。患者さんにとっても『ベースに行けば担当の看護師がいる』という安心感につながっているようですし、私たち自身も無駄のない効率的な働き方を実現できています」(病棟看護スタッフ談)。
また、ダイバーシティへの配慮として、さまざまな職種のスタッフが、建物内のさまざまな場所でコミュニケーションがとれる仕掛けや、完全に一人になれるラウンジなど、スタッフが各々選べる「居場所」が要所に設けられています。
ベース看護の起点となる拠点。ナースカートに簡易なチェアをセットして、看護師が事務処理を行える。スタッフステーションの入り口手前には肘まで洗える懐の深いスタッフ用手洗器が設置されている。






災害発生時にも中核病院としての機能を維持
河北総合病院は、杉並区が定める「災害拠点連携病院」に指定されており、災害発生時にも機能維持を求められています。その責任を担うために、BCPの観点からエネルギーの多重化を図り、電気とガスの双方を熱源として採用。都市ガスは地震発生時にも曲げ耐力に優れる「中圧ガス導管」を新たに引き込み、災害時でもガス供給停止のリスクを低減しています。また、万が一の断水や停電時にも、非常用発電機と受水槽を活用することで72時間病院機能を維持する体制を整えています。
河北総合病院はこれまで100年近くにわたって地域を見守り、貢献してきました。今回の新築移転によって、新たな看護体制を構築し、建物の環境負荷も抑えたうえ、強固なBCPを実現しました。次の100年を見据えた地域の基幹病院として、さらなる飛躍が期待されています。

コラム 現場からの声
椎橋さん 河北看護「BASEモデル®」は、現場の職員が何度も話し合いを重ね、方向性を決めていきました。この看護方式の導入後は、動線が効率化されたため、病棟の面積が拡大したにもかかわらず、職員の歩数は増加しませんでした。さらに、以前に比べて残業時間の削減にもつながっています。![]()
看護部長
椎橋依子さん
副看護部長
飯塚洋さん清水建設
医療福祉施設設計部 副部長
大石茂さん
飯塚さん ベースにはいくつかの機能がありますが、稼働後に実施したアンケートでは、患者さんの情報共有やチームのスケジュール立案を行ったり、医師やリハビリ担当が自然に集まって、情報共有が密にできるという意見が多く見られました。看護チームの編成はコンパクトになりましたが、かえって密度が高まり、多職種とのコミュニケーションも増えたことは評価すべき点だと考えています。
大石さん 診療報酬制度で収入が決まっているなか、エネルギーコストは病院経営を圧迫する大きな要素になっています。河北総合病院のように環境負荷を抑えてエネルギーコストを下げることは、これからの病院経営に欠かせないポイントになるかもしれません。
窓から見える豊かな緑が心を和ませます。
建築概要
| 竣工年月 | 2025年6月 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都杉並区阿佐ヶ谷北1-6-1 |
| 施主 | 社会医療法人河北医療財団 |
| 設計 | 清水建設 |
| 延床面積 | 32134.28㎡ |
| 病床数 | 353床 |
清水建設