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多様性に配慮した明るくクリーンな外来トイレへ改修

国立病院機構金沢医療センター

150年に及ぶ長い歴史を誇る金沢医療センターは、石川県で最も早く地域医療支援病院の指定を受けた地域の中核病院です。しかし、昭和から平成にかけて竣工した建物は老朽化が進んでおり、機能・設備を中心に改修が繰り返されてきました。今回は利用者からの要望を叶える形で外来トイレを中心に改修が行われました。明るく清潔な空間を実現しただけでなく、誰もが使いやすいと感じる工夫にあふれていました。
外来管理診療棟1階、整形外科前にあるトイレの入り口。左は男女別の検体提出窓口があるトイレ。右は個室が2つあるオールジェンダートイレ。通路のサインは自光式で、視認性が非常に高い。

150年の歴史を持つ石川県の中核病院

金沢医療センターの歴史は1873年(明治6年)、金沢城跡内に開設された金沢衛戍病院(旧陸軍)に遡ります。1899年(明治32年)に現在地(加賀藩前田家家臣・旧奥村邸跡地)へ移転し、その後、1945年(昭和20年)に厚生省へ移管されて国立金沢病院と改称。2004年(平成16年)の独立行政法人国立病院機構発足に伴い、現在の名称となり、2023年には創立150周年という節目を迎えました。
病院の理念は「生命の尊さと人権を尊重し、安全で最良の医療を目指す」。これを礎に、「信頼される医療」を地域へ届けることを使命としています。
同病院は全国に約140病院を展開する国立病院機構の「高度総合医療施設」として、北陸地区における基幹病院の位置づけにあります。政策医療19分野のうち、がん、循環器病、精神疾患、成育医療など9分野において専門医療施設としての役割を担いながら、充実した救急医療体制と地域包括医療の推進、周産期母子医療などにも積極的に対応していることが特徴です。

インフラ長寿命計画に沿って最新医療も積極的に導入

金沢医療センターは三つの棟で構成されています。車寄せのある玄関を入ったところが外来管理診療棟。北東側が中病棟、南東側が南東病棟となっています。もっとも古い中病棟は昭和57年に竣工しており、外来管理診療棟が昭和61年、南東病棟が平成3年に竣工しています。施設面では、パーソナルヘルスレコード(PHR)をはじめとする医療DX化にも積極的に取り組むほか、建物・設備の老朽化・陳腐化への対応として、感染や災害に強い環境整備と地域連携強化を両立しながら、近年、入退院支援センター、一般外来、救急外来、小児・産婦人科病棟、集中治療室等の改修を順次進めてきました。
これらは厚生労働省が策定した「医療施設におけるインフラ長寿命計画」に基づいたもので、古くなった建物を全面的に壊して新築するのではなく、構造躯体を活用して配管や内装、設備機器を更新する長寿命化改修が優先的に検討され、それにともなって建物の目標使用年数も60年以上に延長する方針が示されています。

利用者の満足度調査で水まわりの老朽化が顕在化

改修前

「建物の老朽化が進むとともに、利用者の満足度調査からトイレや水まわりに関する不満の声が寄せられるようになりました。和式便器の残るトイレが多いことも大きな要因だったと思います。掃除が行き届いているはずなのにどこか暗く、汚れが染みついたトイレはスタッフにとっても居心地のいい場所とは言えませんでした」
そう語るのは、ベテランの看護スタッフ。満足度調査の結果を受けて環境ワーキンググループを立ち上げるなど、トイレの改修を病院全体の喫緊の課題として認識、まずは外来エリアを中心に、トイレの改修が行われました。特に利用者が多い整形外科前と内科前のトイレはそれぞれ全面改修されました。その他のトイレは残っていた和式便器26か所を洋式便器に更新しています。ちなみに改修計画時に金沢医療センターは「癒しのトイレ研究会」に「明るく清潔感があり、患者が使いやすいトイレを提案してほしい」と協力を要請。これを受けて当研究会は多角的な視点から現地調査を行い、プランをご提案、また共同研究調査にもご協力いただいています。

検体提出窓口がついた外来管理診療棟の男性用トイレ。白を基調としたクリーンで明るいトイレに改修されている。
外来管理診療棟の女性用トイレ。手前に見えるのは身だしなみを整えるためのスタイリングコーナー。
女性用トイレのスタイリングコーナー。身だしなみを整えるために設えられた鏡や、プライバシーに配慮した仕切りと小物が置ける棚も備えている。
全面改修とあわせて、地下1階から2階までの和式便器26か所は洋式便器に改められた。
大便器ブースの仕切りは天井まで立ち上げられ、プライバシーを確保。各ブース内に照明が設けられたことで明るい空間に生まれ変わった。
中病棟の女性用トイレ。洗面コーナーとスタイリングコーナーがL型に配置され、スタッフにとっても使い勝手のよい空間となっている。

誰もが使いやすく、心地いいトイレへ改修

全面改修された2か所のうち、整形外科前のトイレはエントランスから直線的に目に入る位置にあり、利用者の多いトイレです。改修前はエントランスから見て奥に男女別のトイレ、手前の並びにバリアフリートイレ、その裏側に職員用トイレという構成でした。男女別のトイレには尿検査の検体窓口があり、検査が重なるときには女性用トイレに行列ができることが事前の調査で明らかになっていました。トイレ内は通路の天井に蛍光灯が設置されているのみでブース内に照明がないため、薄暗い雰囲気のうえ、老朽化した水まわり特有のくすんだ印象がありました。これらを改めるために全面改修された2か所のトイレは、天井と壁面を白一色で統一し、個室ブースにもLEDライトを設置。クリーンで明るい印象に生まれ変わりました。また、大便器、小便器ともに壁掛け式のものを採用して、清掃性に配慮。手すりの左右勝手を変えたブースや、ベビーチェアやフィッティングボードを備えたブースも用意され、様々な人の利用に対応しています。ハンドドライヤーは、二つある手洗いボウルの間に設置され、濡れた手指の移動距離を最小限に抑えることで床への水垂れの抑制にも役立ちます。

全面改修されたトイレの大便器ブース。利用者がカルテなどの入ったファイルを置ける棚や手すり、壁掛け式の便器などは共通の仕様となっている。
大便器ブースには、ベビーチェアやフィッティングボードが備わるところもある。付帯設備を示すサインがあり、利用者にもわかりやすい工夫がなされている。

整形外科前のトイレは配置も変えました。改修前のバリアフリートイレの位置にオールジェンダートイレを設けています。ここは通路から前室を経て二つの個室があり、誰でも使うことができるため、検査時の女性用トイレの渋滞緩和が期待されます。また、利用者の付き添いが異性だった場合にも前室で気兼ねなく待機することが可能となりました。他方、職員用トイレはバリアフリートイレに改修されました。改修前のバリアフリートイレは、通路に面しており、周囲から出入りが見えやすい上、設備も古く使い勝手に課題がありました。そこで、前室を設けて出入りしやすくするとともに、車いす利用者だけでなく幅広い利用に適したレイアウトや設備を採用することでそれを解消。これまでなかったオストメイト用設備や乳幼児連れ向けの機能も備え、多様な利用者に配慮されています。

オールジェンダートイレは個室が2か所。引き戸で出入りがしやすく、前室があるので介助者が異性であっても手前で待機することができる。
オールジェンダートイレの個室内。ベビーチェア付きとフィッティングボード付きがそれぞれ用意されている。
バリアフリートイレの入り口。手前に前室を設けて車いすでの出入りに配慮。入り口の前は採血の列ができるので、入り口をふさがないよう、床に表示がある。
バリアフリートイレにはオストメイト対応の汚物流しやベビーチェア、ベビーベッドなどが備わる。介助のためのスペースも十分にとられている。
利用者が多い中病棟1階の内科前のトイレも全面改修された。入り口や通路が広くとられており、車いすでの出入りも可能。
中病棟の男性用トイレ。清掃性のよい壁掛け式の小便器。小便器前だけ壁面と汚垂石部分の色調を変えて、正しい位置での利用を促している。パーティションで仕切られているため、スタッフも気兼ねなく利用できる。
広めの大便器ブース。ベビーチェアとフィッティングボードが設置されている。

中期計画を立案し順次改修の予定

今回の改修によって大きく変わったのがトイレを示すサインです。高齢の患者さんが多いこともあり、改修前の調査では、トイレの場所が分からず戸惑う様子が散見されました。そこで、通路に掲示されるサインは自光式とし、昼夜を問わず遠くからでも視認しやすくなりました。また、ベビーチェアやフィッティングボードなどを備えたトイレには、それを示すピクトサインが扉に掲示され、機能がひとめでわかるようになっています。
今回は利用者の多い外来トイレを中心に、モデルケースとして先行改修が行われました。まだ病棟部分などは既存の水まわりがそのままになっており、これらも順次改修されていく予定です。水まわりが刷新されることで、150年の歴史の蓄積と最新の機能を兼ね備えた金沢医療センターは、変わり続ける医療ニーズに応えながら、これからも地域医療の要として歩み続けるでしょう。

改修前の職員用トイレの場所にバリアフリートイレを移設し、男女別トイレの並びにオールジェンダートイレを2か所新設。大便器の総数は以前と変わらず、患者用と職員用を共用とすることで、レイアウトにゆとりがうまれ、使い勝手も向上した。

【特集|座談会】
利用者の満足度に直結する水まわりの改修

人材不足や、収入面の制約、人口の高齢化による医療需要の増大など、病院経営を取り巻く問題が山積しています。こうした状況のもと、建物の老朽化にともなって水まわりの問題が顕在化している病院は少なくありません。独立行政法人国立病院機構金沢医療センターでも利用者の満足度調査でトイレに関する不満を訴える声が少なくありませんでした。そこで利用者の多い外来を中心に、水まわりの改修工事を実施。水まわり改修への要望や、実現できたこと・できなかったことについて、医療現場と工事にかかわった担当の方々にお聞きしました。

企画課長
沖垣内一幸さん
南4病棟看護師長
大澤幸江さん
業務班長
若山豊範さん
外来看護師長
山田良子さん
専門職
竹下仁人さん

外来副看護師長
鍬田穂菜美さん

改修の背景

大澤 病院の利用者に病院に関する満足度調査を行っているのですが、トイレの満足度が最下位という、厳しい結果でした。とても古くて、和式便器が残っていて、しかも汚いという評価でした。そこで環境ワーキンググループを立ち上げて、トイレを何とかしようということになったのです。患者さんだけでなく、働く私たちもトイレが一番気になるし、きれいだと気持ちがいいということに改めて気づかされたんです。

鍬田 スタッフも患者さんと同じトイレを利用するのですが、古くて全体的に暗いのと、掃除はきちんとされているのに長年蓄積されたくすみや設備の老朽化のせいで、あまり長居したくない、居心地が悪い印象でした。また、車いすを使用していながらも個室には自力で入れる患者さんも多くいらっしゃいます。トイレの入り口が狭くて車いすだと入るのに苦労したり、そんななか我々スタッフがトイレを利用しなければならず、心苦しいところがありました。バリアフリートイレがひとつしかないのも問題でした。

若山 女性用のトイレが足りていないという問題も、10年以上前から顕在化していました。今回の改修は和式便器を洋式に改めることがテーマの一つでしたが、それにともなって女性用のトイレ不足も補えるのではという目論見もありました。

沖垣内 私がこの病院に着任した時に、環境ワーキンググループ長の西島先生と会って最初に言われたことが、「ここは建物が古くて和式便器も残っているから患者さんもスタッフもトイレ難民で、みんな空いている洋式トイレを探して徘徊してるんです。こんな病院どう思いますか?」という言葉でした。「患者さんの利便性向上とスタッフの福利厚生の両面からしっかり取り組んでほしい」と強く要請されました。
しかし、いざ改修計画を進めていくと、建築資材の高騰と職人不足により当初の予算から工事費が大幅に上昇し、そのままでは発注できないという事態が何度も繰り返されました。それこそ1年で5%~10%レベルで工事費が上がっていったのです。そのうえ能登半島の復興支援で職人さんが出払っている状態ですから、人手不足で、工期の保証も難しいという状況でした。設計を見直したり規模を縮小してなんとか工事を終えることができたわけです。
今回は外来管理診療棟と中病棟の1階のトイレを全面改修、その他のトイレは和式便器を洋式に改修しました。本来は2階外来のトイレも全面改修する予定でしたが、そこまで手を付けると、職人不足で予定していた工期に収まらないこと、また、改修工事中、トイレが使えなくなることなどを考慮すると、見送らざるを得ませんでした。また、当院は耐震壁で建物を支えている構造なので、1階の壁はなるべく触りたくない。触ると工期が1ヶ月以上延びてしまうし、コスト的にもさらに規模を縮小しなければならなくなるためです。こういう事情も設計・工事の制約となりました。

竹下 一番最初の計画では病棟トイレや浴室なども改修の対象だったのですが、費用や工期の兼ね合いで規模は縮小。本当はもっとやりたいという気持ちがありました。その中で外来は、利用頻度や人の往来自体が多いですし、満足度調査では外来患者さんからの「トイレをもっときれいに」という声が多かったので、まずこれに応えようということになりました。具体的には2023年度の1年間、癒しのトイレ研究会に現地での実際のトイレ利用状況の事前調査や問題点の洗い出しをしていただき、設計案の提案を定期的にいただいていました。2024年の67月には設計図案の打ち合わせがほぼまとまったのですが、契約締結に至ったのはさらにその1年後のこと。事業としては非常に長い道のりになりました。先ほど話が出たように、諸事情があってのことです。また、外来のトイレはスタッフも共用しますので、業務上の衛生環境向上という面も踏まえて優先的に改修する場所を絞り込んでいきました。

山田 改修が始まってからは、工事で閉鎖されているトイレの代替場所に患者さんを案内するのが大変でした。患者さんは一番近いところに行きたいという気持ちがあるので、それを違う階のトイレに案内しなければいけない。患者さんにとってもその往復が大変だったのではないかと思います。計画通りに工事を進めるために患者さんにはかなりのご協力をお願いしました。また、今回改修した外来トイレは検査課と連動するトイレだったので、工事中の患者さんの流れや検体の提出方法について、検査課や事務方の職員とかなり綿密に詰めていきました。

若山 工事中は工程によって断水もあったのですが、水が必要な検査機器もあるので、断水と検査の時間調整をしなければいけなかったり、外来トイレの配管工事のときには、影響する地下の薬剤部の職場レイアウトを変えたり、影響は他職種にわたることも多く、その調整はやはり大変でした。その他、工事中は音や振動が出るので、外来が開いている時間ではなく夕方遅い時間帯に工事をお願いしたりしましたね。

改修のポイント

竹下 トイレ改修のテーマはなんといっても「明るくきれいに」ということが第一でした。利用者から汚い、暗いと思われるのを改めたかった。もちろん機能的な部分を補完していく目的もありました。個室ブース内に検査用カルテのファイルを置くスペースがないこと、個室ブースが狭く介助しにくいこと、入り口が出入りしづらいことなど、細かい利便性の改善もポイントのひとつでした。

大澤 女性用トイレには壁に鏡だけ新たに取り付けたところがあります。こういうところは実際に使ってみて、ちょっとした身だしなみを整えることに使えるので、ありがたいですね。

山田 バリアフリートイレは、トイレの中で介助をシミュレーションして「手すりはここでいいけれど、ごみ箱はここに変更」とか、車いすに座っていろいろなところに手が届くかどうかなどを確認しました。扉の開閉ボタンの位置は、シミュレーションをもとに変更してもらっています。

沖垣内 改修前の職員用トイレは、入り口の上に患者さんを呼び出す電光掲示板があったため、そこに視線が集まるという問題がありました。さらに、採血室に並ぶ動線上に入り口があったので、患者さんが並んでいて入りにくいということがありました。そこでまず電光掲示板を移動させ、採血室に並ぶ列を示す床のサインも、トイレの入り口をふさがないよう指示する案内へ替えました。これらの変更は看護師の発案によるものです。

山田 工事中は毎週工事に関する会議が行われて、完成してからある程度時間が経って、手直しをお願いすることが何度かあったのですが、いつも素早く対応していただいて助かりました。

沖垣内 施工検査のたびに他職種の関係者を集めて意見出しをしました。現場に行って、様々な角度から課題を解決するための議論をしたり、問題がないか確認を行っていきました。日常の病院運営をしながら工事を進めるためには、日々打ち合わせをして確認していくことがとても大切です。我々や施工者に任せるのではなく、現場の医師や看護師が自分のこととしてとらえてくれたから、前向きに考えて工事を進めることができたのだと思います。細かいことはいろいろありましたが、最終的には大きなトラブルもなく、大成功だったと言えるのではないでしょうか。

新しいトイレのいいところ

鍬田 中病棟の内科前のトイレは、改修前は通路から男性用トイレの小便器が見えたり、「患者さんと隣り合わせで小用を足すので気まずかった」と男性医師から聞いたことがあります。それが改修によって通路からは中が見えなくなり、小便器間に仕切りが設置されてプライバシーに配慮され、とても使いやすくなったと評価されていました。

大澤 改修前に比べるとやはり視覚的に広く見えるし、清潔感もあって入りやすくなったと感じます。早く出たいと思わなくなりました。トイレにベビーチェアが設置されているのを見ると、他の病院レベルにアップデートされてきれいになったんだ、とすごく感動しました。

沖垣内 改修したトイレのサインは自光式にしました。日中も目立ちますし、「ここにトイレがあります」ということが一目でわかるようになったと思います。夜間には救急の付き添いでご家族が来院することも多いのですが、そういう方のためにもひとめで認識できることは大事なのかなと思っています。

男性スタッフからも好評だという小便器。プライバシーに配慮した仕切りが設置されている。
全面改修したトイレにはベビーチェアやベビーシート、フィッティングボードが設置された個室ブースも用意されている。これはバリアフリートイレに設置されたベビーチェアなどの付帯設備。

オールジェンダートイレの設置

大澤 以前から地下の職員用トイレはオールジェンダートイレにしていました。実際のところは「女性は女性用、男性は男性用」を望む人もいるので、外来のオールジェンダートイレが本来の意味で活用されているかどうかは正直なところまだわかりません。ただ、現代においてあって然るべきものだと思っています。

若山 世代によっては「オールジェンダートイレ」という概念自体になじみがなく、入るかどうか迷う方もいらっしゃいます。

竹下 日常的に様子を見ていると、男女問わず利用されているようです。動線上すぐ目に入る場所にあることも大きいでしょう。車いすで介助されている患者さんは、介助者が異性であっても一緒に入りやすいという面もあるかと思います。また事前調査で、ピーク時に隣の女性用トイレが混雑して行列ができることが分かっていました。そのため、混雑時に女性にも使っていただきやすい選択肢を増やすという意図もありました。高齢の方などは使っていいものか迷われることもありますが、ある程度その意図が活かせているかと感じています。

1階外来トイレのオールジェンダートイレ。ジェンダーに限らず、混雑緩和や気兼ねなく利用したい時など、多様なニーズに対応する選択肢の1つとして導入された。

災害対策と事業継続計画(BCP)

竹下 私は能登半島地震の発生当時、被害が大きかった七尾病院に在籍していました。病院はパネルが割れたり病棟と外来棟のつなぎ目に大きな段差が生じたり、病棟浴室の一部が損壊するなどの被害はありましたが、幸い断水が長期にわたることはなく、外部からの支援もあって水の供給には大きな支障が出ませんでした。トイレが全く使えなくなるような事態にはならず、診療が継続できる状況にあったのは救いでした。

沖垣内 金沢医療センターも地震で天井が一部落下し、裏の擁壁が崩れるなど修繕が必要な箇所が生じましたが、軽微な被害にとどまりました。病院はいざというときに、被災者を受け入れる一時避難所になることがあります。多くの人が集まる環境では、水まわりの衛生管理が感染防止の観点から非常に重要です。今回のトイレ改修と並行して、院長の発案で蛇口を触らずに使えるセンサー式の水栓への切り替え工事も行っています。新しいトイレは材質や構造も進化しており、飛沫が飛び散りにくい設計になっているなど、衛生面でも昔とは大きく異なります。災害医療の観点からも、タイムリーな改修だったと院長も語っていました。

今後の展望
水まわりとホスピタリティ

大澤 病棟のトイレはまだ昭和の設備のままです。どれだけ掃除をしても長年染み付いたにおいが残っており、汚れも取りきれません。フラッシュバルブも古い型のものです。それと比べると今回改修した外来のトイレは本当に使いやすいし清潔感があります。患者さんが病気で辛いなかでもトイレに入ったらほっとできるような環境になったのではないかと感じています。ぜひ今後は病棟トイレの改修もしていければと切に願っています。

竹下 患者さんやご家族と直接お話すると、医師・看護師が提供する医療には感謝しているけれど、療養環境は良くないという声をいただいたことがあります。トイレをはじめとした療養環境に対する不満が積み重なると、病院全体のイメージに影響し、医療従事者との関係性にまでマイナスの影響を及ぼすこともあり得ます。水まわりをはじめとしたホスピタリティの向上は、病院にとって決してないがしろにできない重要な要素です。もちろん病院はホテルではありませんが、患者さんが求めるものとのミスマッチを少しでも解消し、より良く思っていただけるための一つのファクターとして、今後も取り組み続けていく必要があると思っています。

沖垣内 意見箱に「トイレが気になる」といった声が届けばすぐに清掃対応するなど、今ある設備の中でできることを日々続けています。老朽化が進む設備ですが、改修したいという想いと実際に改修できるかどうかは別問題で、工事費が常識を超えた水準で上昇し続けているなか、どう進めていくかが今後の課題です。今回の改修はとても難しいプロジェクトでしたが、院長が何人もの担当患者さんから「トイレが良くなりましたね」と声をかけてもらったそうです。そう言ってもらえたことが、とても嬉しかったと。そういう話を聞いて、苦労はしたけれど改修した甲斐があったな、とつくづく感じました。

建築概要

竣工年月 2025年3月
所在地 石川県金沢市下石引町1-1
施主 独立行政法人国立病院機構金沢医療センター
設計 ツグチ建築設計
延床面積 6万4302㎡
病床数 一般512床、精神42床

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